寒い日の朝、出勤途中の電車の中で、そういえば今朝は何も食べて来なかったなと気がつく。昨日はちょっと飲み過ぎて、朝食を食べる気分ではなく家を出たのだが、今ごろお腹が空いてきた。そうだ、電車を降りたら立ち食いそばでも食べてから会社に行こう。立ち食いそば屋は、駅のホームにもあるし、改札を出たところにも1軒ある。人の流れにつられて歩きながら、改札口を出てすぐのお店に入る。店内はダシの匂いが漂っている。急に食欲が増してきて、券売機へ。とりあえず天ぷらは定番、生卵も入れて天玉そばにしよう。店員が麺を湯切りして丼ぶりに入れ、天ぷらを上に乗せ、生卵を割り入れ、そこにツユをかけるのを眺めていると、何とも言えない幸せな気持ちになる。さて食べようか。ちょっと汁をすすってから、麺を生卵にからめ口の中へ。ウマい、立ち食いそば、ウマい。
そのような幸福感に水を差すような記事を見つけ、そのタイトルに愕然。「東京立ち食いそば名店 全部まずい」。「実話BUNKA超タブー」という雑誌の2月号の記事らしい。これはひどいと思って、AmazonKindleで買い求め読んで見ました。
とりあえずコロナの話。「東京は地獄の都市」「東京都民も最低」「意識の低いバカばかり」と攻撃的な文字がやたら目に入ります。そして例のごとく、ちょっと刺激的なおネイさんが微笑んでいます。成程そんな感じの雑誌なんですね、と素通りして目当ての記事にたどり着きました。

「東京立ち食いそば名店 全部まずい」の前に「貧乏臭いだけなのに訳知り顔のキモいおっさんが語りたがる」とありました。そして続けて「ラーメン、カレー、牛丼に飽きた頭の悪い男たちが今注目しているのが、立ち食いそばだ。」です。素晴らしい。ここまで言われると逆に清々しさを感じ、貧乏臭くてけっこう、訳知り顔でけっこう、キモくてけっこう、頭悪くてけっこう、それなら毎日立ち食いそばを食べて、東京中の立ち食いそば店を制覇してやろうかと、対抗意識を燃やし始めます。
およそ30店舗ぐらいがやり玉にあげられ、あらゆる否定的な言葉を駆使して貶めていると思いきや、色々読んでいくと、そうでもなく何か中途半端。確かに貶めてはいますが、中には「春菊天は大きいだけ」や「わかめも大量で貧乏臭異常」など、これって逆に褒めてるんじゃないの、と思える言葉もあり、「場所のせいかキャバ嬢の客多め」にいたっては、宣伝してるんでしょう的なイメージ。かなり辛辣な内容で責めているお店もありましたが、そのお店は、このようなことではビクともしない超人気店。結構考えて書いているのかな。
ちょっと気になったのが、チェーン展開している有名店が1軒も載せられていないことです。そのような大型店をどのような薄汚い言葉で料理するのか、見てみたい気もしますが、色々問題ありますから、しょうがないでしょう。
立ち食いそば屋は、本当に庶民の味方です。安くて手軽で美味しいし、それが証拠に何十年も前から、駅の近くから無くなることはありません。そして、立ち食いそばは、そば屋ですが、本格的なお蕎麦屋さんとは一線を画し「立ち食そば」としてのジャンルを確立しています。麺のコシがどうのとか、そば粉の割合がどうのとか、そんなことは関係ないでしょう。立ち食いそば屋で本格的な麺が出てきたら、逆に、ちょっと違うんじゃないのと思うかもしれません。

回転寿司もそうです。回転寿司で食べるお寿司と、通常のお寿司屋さんで食べるお寿司とは違います。今や機械でご飯を形作り、上にネタをのせ、ワサビはお客さんが勝手にどうぞの回転寿司。誰も普通のお寿司屋さんとは比べません。「回転寿司」という立派なジャンルです。家族連れでも手頃な値段でお寿司が食べられ、板前さんに遠慮することもなく、楽しいひと時を過ごせます。立ち食いそばも、本格的な蕎麦を味わうのではなく、サッと手軽にお腹を満たすためのもので、それで満足なんです。それにもうひとつ、立ち食いそば屋さんならではのメニューもあります。
代表的なのが「コロッケそば」。これはさすがに、通常のお蕎麦屋さんにはないでしょう。どういうわけか、とういうと語弊がありますが、人気メニューとして、ずっと生き続けています。立ち食いそばの面目躍如です。
ただ、立ち食いそば屋さんに入ったことがない人が、あの記事を見たらどうなんでしょうか。立ち食いそばはマズいという意識が植え付けらるので、罪作りな話かもしれません。でも、入ったことがない人は、これからも入らないでしょうし、それが立ち食いそばなんだと、そんな感じがしないでもないです。
そうそう、この記事の最後にありました。「食べてみてわかったことは、意外とつゆと麺にこだわっている店が多いこと。立ち食いそばのくせに生意気だな!」...何だ、褒めてるじゃないか。
By 料理パパ3号
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